実際のビジネス現場では、コーチングとティーチングを状況に応じて適切に使い分けることが重要です。

短期間で正確な知識や手順を習得させたい場合や、即座の対応が求められる場面ではティーチングが有効です。

一方で、部下や後輩の思考力や主体性を伸ばし、自発的に考えて行動できる力を育てたい場合にはコーチングが適しています。

どちらの手法も長所と短所があり、対象者のスキルや経験、業務の緊急性や重要性を考慮した上で、最も適した指導方法を選ぶことが組織の成果向上につながります。

以下では、それぞれの手法が特に効果的な具体的状況について詳しくご紹介します。

 

 

コーチングが効果的なケース①

 

コーチングが最も効果を発揮するのは、指導対象者がすでに一定のスキルや実務経験を備えており、その上で更なる成果を生み出すための思考力や判断力を伸ばす必要がある場面です。

コーチングは相手の内側にある知識や経験、考え方を引き出すアプローチであるため、基礎がまったくない状態よりも、すでに一定程度の業務理解や実践経験を有している人材に対して行ったほうが、より高い効果を得ることができます。

 

例えば営業職で考えると、新規顧客の獲得方法や案件の進め方などは、明確な正解が一つに定まっているものではありません。

市場環境や顧客属性、競合状況などによって最適なアプローチが変わるため、マニュアル通りに動くだけでは十分な成果につながらないことも多いのが実情です。

このような状況では、ティーチングのように「答えを教える」手法では限界があります。

むしろ、本人が状況を分析し、自分なりの戦略を組み立て、試行錯誤しながら最適解を見つけていくプロセスが重要になります。

 

そのため、営業の後輩に対して「自分ならどうするか」「なぜその選択をするのか」「別の方法は考えられるか」といった問いを投げかけ、本人の思考を深め、自分の力で打ち手を考えられるよう導くコーチングが有効です。

対象者がこれまでの経験から得た知識や成功・失敗の事例をもとに、自ら結論を導き出していく過程を支援することで、単なる知識伝達では得られない本質的な成長が期待できます。

 

また、コーチングは本人の主体性を高め、仕事へのオーナーシップを育てる効果もあります。

自分で考え抜いた結果として行動に移すため、納得感が高く、行動の継続性や改善意識も強まります。

このように、一定のスキルや経験がある部下に対しては、コーチングが能力開発の大きな推進力となり、実務での成果にも直接つながる指導方法となります。

 

 

コーチングが効果的なケース➁

 

コーチングが効果的に機能するもう一つのケースは、緊急性はそれほど高くないものの、将来的に重要となる内容を教える場面です。

コーチングは1対1で時間をかけ、部下や後輩の思考や行動のプロセスを丁寧に引き出しながら進める指導法であるため、即時の成果を求められる業務には向かないものの、長期的な成長や能力開発には非常に有効です。

 

具体的には、部下のキャリア形成に関する指導や、将来的にチームを率いる立場に立つためのマネジメントスキルの育成などが挙げられます。

たとえば、部下が今後どのようなキャリアを積むべきか、どのタイミングでどのようなスキルや経験を身につける必要があるかといったテーマは、短時間で教え切れるものではなく、本人自身が自ら考え、選択肢を検討し、納得感を持ちながら方向性を決めることが重要です。

 

また、チームマネジメントに関する指導でも、単にマニュアルを渡して手順を教えるのではなく、部下自身が課題を見つけ、対応策を考え、試行錯誤できるよう導くことが求められます。

このように、将来的に必要となる知識やスキルを定着させるためには、時間をかけてじっくり取り組むコーチングの手法が適しています。

部下が自ら考え、行動できる力を育むことで、結果的に組織全体の成長や持続的な成果につながるのです。

 

 

ティーチングが効果的なケース①

 

ティーチングが特に効果を発揮するのは、対象者が業務経験やスキルを十分に持っていない場合です。

ティーチングは、答えや手順が明確に定まっている内容を効率的に伝える指導法であり、全員が共通理解を持つことが求められる情報を習得させる際に適しています。

そのため、新入社員や中途入社社員の研修など、基礎的な知識や業務フローを身につける必要がある場面で非常に有効です。

 

具体的には、電話対応や来客対応のマナー、社内システムやツールの基本操作方法といった、日常業務において欠かせない手順やルールを正確に伝える場合にティーチングは効果的です。

これらは失敗すると業務に支障が出たり、顧客や社内の信頼を損ねる可能性があるため、明確な基準や手順を短期間で理解させる必要があります。

ティーチングでは、指導者が答えや手順を直接示すことで、受講者が混乱することなく学ぶことができ、早期に業務に適応させることが可能となります。

 

さらに、ティーチングは複数人に同時に伝えることができるため、同じ内容を効率的に共有する必要がある研修や集合教育においても優れた方法です。

基礎的な知識やスキルを短時間で習得させ、業務に活かせる状態にすることができるため、組織全体の業務効率向上や即戦力化にも貢献します。

このように、スキルや経験が乏しい社員に対しては、ティーチングが最適な指導手法として機能します。

 

 

ティーチングが効果的なケース➁

 

ティーチングが特に有効となるもう一つのケースは、部下が緊急性の高い業務を担当している場合です。

ティーチングは、指導者が明確な答えや手順を直接伝えることで、短時間で必要な知識や対応方法を身につけさせることが可能です。

そのため、即座に正確な行動が求められる状況において非常に効果的です。

 

具体的には、業務上のトラブルやシステムエラーが発生した際の対応、顧客からのクレーム処理、重要な納期直前の作業指示など、迅速な判断と行動が求められる場面が該当します。

このような状況では、部下自身が試行錯誤する余裕はほとんどなく、誤った対応は組織全体や顧客に影響を与える可能性があります。

ティーチングによって、正しい手順や対応方法を具体的に示すことで、部下は迅速かつ正確に行動でき、トラブルの拡大を防ぐことができます。

 

さらに、ティーチングは一度に複数人に指導できる点も緊急時には大きなメリットとなります。

例えば同じ部署内で複数のスタッフが対応にあたる場合でも、標準化された手順を短時間で共有できるため、全体の対応品質を均一に保つことが可能です。

このように、緊急性が高く、即時の正確な対応が求められる業務においては、ティーチングが最も適した指導手法となります。